text2
□君の見せてくれた世界
1ページ/2ページ
君が見せてくれた世界は……
優しさに導かれた愛しい世界だった。
【君が見せてくれた世界】
どんな言の葉でこの想いを口にしたら良いのだろう。
どう表現を重ねれば、この感謝の意がちゃんと伝わるのだろうか。
難解な事だな、と思う。
きっとどれだけ相応しい答えを繋げても、当の本人は笑って間に受けないか、頬をうっすらと染めて、…やはり否定するかのどちらかだろう。
その純真さが、何より眩しくて…
存在が在るだけでぼく自身も、この目に映る世界すらも、
輝く貴方という存在に包まれて居るように感じる。
何かを見つけて嬉しそうに駈けていく無邪気な背も、
「ヴォルフラムーー!早くこっち来いよー。すっごく良いもの見つけたからさー!!」
そうやって両手を添えてぼくの名を呼ぶ持ち前の明るさも、
「なんだユーリ。急な坂なんだから走って転けたら危ないだろうが」
「へーきだって。ほんとにヴォルフは心配症だよな。ほらほら、早く来いって。うわーー!すげーキレー」
自分の心配はいつだって後回しで、周りばかり気にしているから目が離せない、そんな所も全て含めて。
「ほらヴォルフ」
「あぁ、すまない」
王自ら差し出すその美しい手を借りて、
ぼくは婚約者の隣に立った。
「………ッ」
「なっ!言葉なんて消えちゃうくらいキレイだろ??」
「あぁ、…見事だ」
それはこの世のものとすら疑うまでに素晴らしい景色だった。
軽い遠出のつもりでそんなに険しくはない丘を最後まで登ったが、この時間か、恐らく今日の様な天候だからか、
雲の間から差し込む太陽の輝きと淡い空の色が絶妙に調和した……
祖国の、
…ユーリ陛下の治める我々の国が、其処には一面に広がっていた。
「…こんなにキレイな国なんだから、大切にしたいな」
覗き見たユーリの瞳が、希望と期待に輝いていた。
形の良い唇が、そんな言葉を紡ぐ。
「守りたいんだ。この国の人々の笑顔や幸せを」
そしてこの世界も…
「ユーリならば、不可能ではないだろう。ぼくはそう、信じているぞ」
「ありがとうなヴォルフ………ぇ、何?」
剣を置いて片膝を付いて…
さあ今貴方に忠誠を唱えよう。
貴方の為に出来る限りのことを…
「何処迄でも、御供致します」
「…っヴォルフラム!?」
知っている。こうされる事が苦手なことを。
しかし聞いて欲しいんだ。伝えたい言葉がある。
「陛下が、御自分の目的を御果たしになろうと思われるのなら、私は陛下の足となり、盾となり、そして剣となりましょう」
「な、何言って…」
「崇高なる我らの王の為に。…そして、私の愛しい貴方の為に」
「ヴォルフラム………?」
「力の持てる全てを…貴方に」
貴方の為になるのならば、どんな力だって惜しくはないのだから。
「ぁ…、…………フォン、ビーレフェルト卿。…ゎ、悪いけどお…ゎ、私は命を掛けてとか、その重いレベルの言葉は正直嬉しくないんだ。知ってるとは思うけど…」
「では陛下の御望みはいかに」
「…お前はどう思ってる、ヴォルフ」
嗚呼いつだって我らが王は、臣下の一人一人すらも大切に想って下さる。
そんな優しさを持つ王がこれ迄に一体どれほど居たというのか。
見上げていた視線を元に戻した。
目線の先はぼくが愛しくて止まない透き通った漆黒の瞳だ。
「だから何処迄でも御供すると言ったんだ、ユーリ」
その答えに、瞬間目を見開いたユーリは満足そうに破顔した。
望む答えを、伝えられたらしい。
捨て身を覚悟な決意は要らない。
一緒に見たい世界がある。
本人は無自覚だが、それを選ぶのはどれだけ難しいだろう…
「傍に居る、…ユーリが望む限り傍に」
「なら、ずっと一緒だな」
「ユーリの見たい世界は、ぼくの見たい世界だから…」
民を守りたいというのなら、
ぼくが貴方を護ってみせよう。
その笑顔も、慈愛に満ちた優しさも、
全て護ってみせる……
「ずっと、傍に…」
「うん、約束な」
変わっていく未来を隣で感じていけるのは、どれ程幸せなことなのか。
愛しい貴方の隣に立って…
輝かしい空の下、ぼく達はこうして希望に溢れた誓いを立てた……―
君が見せてくれた世界。
過去の悲しさと苦しさから解き放とうと努力する貴方の優しい世界。
ならその未来は、
ぼくも共に歩んで行こう。
同じ視線で、変わりゆく様を見て行こう。
貴方と一緒ならば…
いずれ、それはそれは眩しくて煌く世界が見えてくる。
end.